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東京地方裁判所 平成5年(ワ)12359号 判決

原告

岸那智子

右訴訟代理人弁護士

高木佳子

被告

岸省三

右訴訟代理人弁護士

福田晴政

主文

一  原告が、別紙目録一記載の土地につき、同目録二記載の原被告間の賃貸借契約に基づく賃借権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一争いのない事実等(証拠を掲記した部分のほかは、争いがない)

1  原告の父岸美和夫は、富澤節子から、昭和六〇年五月一三日、左記の土地(以下「土地①」という)を、建物所有目的、期間同日から二〇年間、賃料一か月一万三〇〇八円で借り受け(本件賃貸借契約)、土地①上に建物を所有していた。

所在 新宿区市谷薬王寺町

地番 七一番六四

地目 宅地

地積 119.30平方メートル

2  右美和夫と富澤は、昭和六〇年一〇月、土地①の北東角の部分3.10平方メートルを本件賃貸借契約の対象から外すことを合意した結果、本件賃貸借契約の対象土地は、土地①のうちの116.20平方メートルの部分に減縮された(〈書証番号略〉)。

3  富澤は、平成二年五月二八日、本件賃貸借契約の対象から外された部分を含む8.33平方メートルの土地を、土地①から分筆し(地番七一番八九)、被告に売却した。

被告が買い受けた右土地から、右契約対象から外された部分を除いた部分が別紙目録一記載の土地(以下「本件土地」という)であり、その面積は5.23平方メートルである。

4  平成三年一月三〇日、美和夫が死亡し、原告は、本件賃借権を相続した(弁論の全趣旨)。

5  本件賃貸借契約の賃料は、平成四年五月現在一か月一万六三五八円であって、本件土地の面積相当額は七四〇円である(弁論の全趣旨)。

6  本件土地のうち、別紙目録一添付図面赤斜線(編集部注・斜線のみ)の部分0.37平方メートルは、建築基準法四二条二項の道路に指定されている(以下、この部分を「本件みなし道路」という)。

二本件の争点

本件みなし道路についての賃借権の有無

(被告の主張)

建築基準法四二条二項の道路に指定されている土地は、法律上建物の敷地として使用することができないのであるから、建物所有目的の賃貸借契約は、右土地部分については履行不能で無効である。

従って、本件みなし道路部分については、道路指定を受けた時点で原告の賃借権は消滅している。

第三争点に対する判断

一本件みなし道路は、建築基準法上の私道である。同じ道路であっても、道路法上の道路には、その公共的性質から、設置、管理、利用等について強い公的規制があり、所有権の移転、抵当権の設定または抵当権の移転以外の私権の行使はできないとの規定がある(道路法四条)が、私道についてはそのような私権の制限規定は存在せず、原則として所有者による処分行為は自由であって、所有者がその土地を賃貸することも可能である。

たしかに、建築基準法四四条一項は、同法四二条二項で指定された道路上には建築物等を築造してはならないとしているから、賃貸借契約が右道路指定部分をも対象地としている場合、賃借人が同部分上に新たに建物を建築することはできない。しかし、右道路指定の際現に存在する建物については、同法四四条一項による建築制限の適用はなく、その限度では右道路指定は借地上の建物所有の適法性に影響がないものであるし、また、右建築制限には地盤面下に設ける建築物を初めとしていくつかの例外が設けられているほか、道路指定部分について道路等それ以外の使い方をすることは可能である。したがって、道路指定部分が存在するために賃借土地全体として建物建築が不能になる場合は別として、賃借土地上の一部に建物が建築できないからといって、同部分について建物所有目的の賃貸借契約における賃貸人の債務が一部履行不能になると考えるべきではない(賃借土地の中に道路指定部分が含まれているため、賃貸人の瑕疵担保責任を生じる場合はあり得るが、それは別問題である。賃借人が、道路指定部分についても、賃貸借契約の対象として賃料を支払う意思を有しているのに、右部分について賃貸借契約が有効に成立することを否定する必要はいささかもない)。

二結論

以上のとおり、本件みなし道路を含む本件土地についても、原告は本件賃貸借契約に基づいて賃借権を有していると認められるから、主文のとおり判決する。

(裁判官金築誠志)

別紙目録一

所在 新宿区市谷薬王寺町

地番 七一番八九

地目 宅地

地積 8.33平方メートル

のうち、別紙図面のP3、P5、P16、P7、P3の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分5.23平方メートル

目録二

原・被告間の別紙目録一記載の土地についての左記条件の賃貸借契約

賃貸借の目的 普通建物所有

賃貸借の期間 平成三年一月三〇日から平成一七年五月一二日まで

賃料 一か月七四〇円

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